司馬遼太郎『大阪城公園駅』陶板レリーフ

大阪府
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1983年(昭和58年)10月1日:大阪環状線の森ノ宮駅 – 京橋駅間に国鉄の駅として開業。
大阪築城400年まつり・大阪城博覧会開催に合わせて開業した。

当駅は大阪環状線で唯一の地上駅となっているが、当駅周辺にはかつて大阪砲兵工廠が置かれていた。
そのため当駅付近を高架化した場合、軍事機密が漏洩する可能性があったため、旧陸軍は高架化を認めなかったとされている。

長らくのりば番号が存在していなかったが、2006年秋頃にのりば番号が付与された。

大阪城公園駅は、OBP開発の中で生まれた。
コンコースの壁面に、手書きの詩を写した陶板がある。
故司馬遼太郎さんが駅開業を祝して書いた。

最後の一節にこうある。

悲しみは、この街に似合わない。
ただ、思うべきである。
とくに春、この駅に立ち、風に乗る万緑の芽の香に包まれるとき、ひそかに、石垣をとりまく樹々の発しつづける多重な信号を感應すべきであろう。

司馬さんは、大阪の歴史を詩につづり、大阪砲兵工廠の誕生と終戦間際の大空襲をしたためた。
そして多くの犠牲者を出した五十七年前の悲劇を忘れてはいけないと、訴える。

何が書いてあるか、じっくり味わいたいのですが、レリーフは高いところに設置されていて、目も悪いからよく読めません。

帰宅後、調べると、本に掲載されていることがわかりました。

「ある運命について」に書かれている。

駅の玄関に掲げてあるプレート。
陶板レリーフ「大阪城公園駅」 文章:司馬遼太郎

大阪城公園駅 陶板レリーフと司馬遼太郎の作品

3面に日本画家 西山英雄氏の「なにわの精華」

三部作構成になっています。



玄関を出ると大阪城ホール、大阪城が目の前だ。

外はまだふるえる寒さだ。

玄関を入ったところにある大阪城の模型。

大阪城ホールのJRにおける最寄駅であるため、コンサート終了後は激しく混雑することがある。

当駅にはその旨を示す掲示板が常備されており、コンサート開催日には歌手名や入場者数、混雑が予想される時間帯を記入して使用する。
なお、同様の掲示板は大正駅(京セラドーム大阪のJRにおける最寄駅)にも設置されている。

また、コンサート終了後は当駅の混雑を避けるため、京橋駅や森ノ宮駅まで歩く乗客も散見される。なお、大阪城ホール側では、京橋駅や森ノ宮駅からのアクセスも案内している。

司馬遼太郎記念館では2月20日から新しい企画展「司馬作品から浮かぶ大坂城」が開催されている。
企画展 司馬作品から浮かぶ大坂城

記念館では・「大阪城公園駅」陶板レリーフ校正用フィルム初公開が公開されている。

レリーフに書かれている文章

おごそかなことに、地もまたうごく。
 私どもは、思うことができる。この駅に立てば、台地のかなたに渚(なぎさ)があったことを。遠い光のなかで波がうちよせ、漁人(いさりびと)が網を打ち、浜の女(め)らが藻塩(もしお)を焼いていたことども。秋の夜、森の上の星だけが、
遙かな光年のなかで思い出している。

 夏、駅舎の前の森の露草の花の青さにおどろくとき、またたきの間(ま)でも茅渟(ちぬ)の海を思いかさねてもらえまいか。ひたにこのあたりまで満ちていたことを。

 目の前の台地は島根のごとくせりあがり、まわりを淡水(まみず)が音をたてて流れ、大和や近江の玉砂を運び、やがては海を浅め、水が葦(あし)を飼い、葦が土砂を溜めつつ、やがては洲(しま)になりはててゆく姿は、たれの目にもうかべることができる。

 八十(やそ)の洲(しま)
 それがいまの大阪の市街であることを。冬の日、この駅から職場へいそぐ赤いポシェットの乙女らの心にふとかすめるに違いない。創世の若さ、なんと年老いざる土(くに)であることか。

 私どもは、津の国にいる。
 津、水門(みなと)、湊、港。私どもは、古き津の風防ぎする台上にいる。
 台地は海鼠形(なまこがた)をなし、方正にも北から南によこたわり、南端の岩盤に四天王寺が建った日のことを、炎(ほのお)だつ陽炎のなかで思っている。輪奐(りんかん)が海に輝いたとき、遠(とお)つ國々の舶(ふね)が帆をななめにして松屋町筋の白沙に近づき、この駅舎のあたりの入江のいずれかへ石の碇(いかり)を沈め、内典(ないてん)・外典(げてん)の書籍を積みおろしたにちがいない。思想の書、詩の書、工芸の書。…もし若者が、駅舎のベンチの何番目かに腰をおろし、ひざに書物を置いて空を見あげたとき、櫂(かい)で描(えが)いたような飛行機雲があらわれるとすれば、その舶が曳きつづけてきた航跡であるとおもっていいのではないか。

 海鼠形の台地の北の端は、いま私どもが眺めている。ここに西方(さいほう)浄土にあこがれた不思議の経典を誦(ず)する堂宇ができたとき、地は生玉荘(いくたまのしょう)とよばれ、坂があった。おさかとよばれた。堂宇の地は礫(こいし)多く、石山とよばれていたが、ここに町屋(まちや)がならんだとき、この台上にはじめてささやかな賑わいができた。
 楼上から西をのぞみ、陽傾き、帰帆相次ぐころ、波のかなたの一の谷の崖に沈んでゆく陽日の華やぎは、ひと堂宇が去り、城ができたとき、日本の歴史は変った。
 威と美を多層であらわした世界最大の木造構造物は、大航海時代の申し子というべく、その威容を海から見られるべく意識した。事実、この海域に入った南蛮船は、極東のはてに世界意識をもった文明があることを象徴として知った。

 城の台上から西へ降りた低地はすでに八十洲(やそしま)ではなくなり、網模様のように堀川がうがたれ、大小の商家がひしめき、日本國のあらゆる商品がいったんそこに運ばれ、市(いち)が立ち、値がさだまり、やがて諸国に散じた。
 この前例のない仕組みそのものが天下統一の独創から出ており、にぎわいは空前のものとなった。

 台上の城には、あざやかな意志があった。台下の商権と表裏をなしつつそれを保護し、さらには海外を意識し、やがて思想なき過剰な自信が自己肥大をまねき、精神の重心が舞いあがるとともに暴発し、他國に災をあたえ、みずからも同じ火のなかでほろんだ。人の世にあることのかがやきと、世に在りつづけることの難(かた)さをこれほど詩的に象徴した建造物が他にあるだろうか。

 つぎの政権は、篤農家のように油断なく、諸事控えめで、無理をつつしみ、この地の商権もまた前時代と同様、手あつく保護した。信じられるだろうか、二百七十年ものあいだ、この一都市が六十余州の津々浦々に商品と文化をくばりつづけたことを。

 さらには、評価の街でもあった。物の見方、物の質、物の値段……多様な具象物(ぐしょうぶつ)が数字とし抽象化されてゆくとき、ひとびとの心に非條理の情念が消え、人文科学としか言いようのない思想が萌芽した。さらには自然科学もこの地で芽生える一方、人の世のわりなきこと、恋のつらさ、人の情の頼もしさ、はかなさが、ことばの芸術をうみ、歌舞音曲を育て、ひとびとの心を満たした。

 右の二世紀半、ひとびとは巨大なシャボン玉のなかにいた。
 あるいは六十余州だけがべつの内圧のなかにいた。
 数隻の蒸気船の到来によって破れ、ただの地球の気圧と均等(ひとしなみ)になったとき、暴風がおこった。
 この城は、ふたたび情勢の中心となり、政府軍が篭り、淀川十三里のかなたの京の新勢力と対峙(たいじ)した。ついには、やぶれた。二度目の落城であり、二度ともやぶれることによって歴史が旋回した。この神秘さを感ずるとき、城はただの構造物から人格になっていると感じてもよいのではないか。

 その地に居ることは、その運命とかかわる。この城が六十余州の中央に在ることで、好まざる運命をも背負わされた。薩南の暴発にそなえるために、城のまわりに火砲の鋳造所が置かれた。

 やがて、首都を頭脳とする日本國が、十九世紀の欧州の膨張主義を妄想しはじめるとともに、この場所の設備も拡大され、やがて共同妄想が業火とともに燃えおちた日、の城のまわりの鉄という鉄が熔け、人という人が鬼籍に入った。城は三度目の業火を見た。

 悲しみは、この街に似合わない。
 ただ、思うべきである。とくに春、この駅に立ち、風に乗る万緑の芽の香に包まれるとき、ひそかに、石垣ををとりまく樹々の発しつづける多重な信号を感應すべきであろう。その感應があるかぎり、この駅に立つひとびとはすでに祝われてある。日日のいのち満ち、誤りあることが、決してない。    司馬遼太郎
 (JR大阪城公園駅陶板レリーフから)

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