写真、撮ろうよ!
2003年から自身の撮影の経験から、写真の楽しさを伝える「ワークショップ」を開始。
さらなる写真家への意欲を燃やす、! フリーカメラマン・渡部さとる氏の「旅するカメラ」第2弾「カメラ」そのものはもちろん、写真を撮ること自体についても掘り下げたコラム19編。
作品群はフルカラー未発表作品を含む全50点!
感度分の16
世界中、晴天なら太陽の光の量は一緒。
晴れた日に写真を撮りたければ、絞りをf16まで絞って、感度分の1秒にシャッタースピードをセットすればいい。
ISO400ならシャッタースピードは1/400で絞りはf16になる。
僕はこの法則を「感度分の16」と呼んでいる。
その設定のまま、空が青く晴れた気持ちのいい日曜日にカメラを持って散歩してほしい。
露出を合わせるのが面倒で、買ったはいいがしまいこんでいたライカやローライやハッセルがあればなおいい。
露出はもう決めてあるわけだから、後は光が当たっているところにレンズを向けてシャッターを切るだけだ。
(2014年『旅するカメラ2』「感度分の16」より抜粋)
「感度分の16」といういささか奇妙なフレーズが、『旅するカメラ』の代名詞のようになってしまった。
本の出版以降、よく「感度分の16で撮ってます」と言ってもらえる。
もともと僕が考えたわけではなく、昔からの言い伝えのようなもの。
晴れたときの露出は変化しないのだ。
この「感度分の16」は、デジタル時代にも有効な指標で、春夏秋冬どの季節、どの地域でも使える。
今まで標高4000メートルの高地や、赤道直下の南の島、ヨーロッパ各国、アメリカ、もちろん日本各地で撮影してきたが外れたことがない。
なにせ地球を周回しているISS(国際宇宙ステーション)が地球を撮影するときの露出と同じなのだ。
NASAではニコンのデジタルカメラを使い「ISO200に設定、シャッタースピードは1/200秒、絞りはf16にせよ」と指示が出ている。
宇宙から見れば、晴れているところの光の量に差が無いことがよく分かるはず。
以下に、僕が普段使っている露出の目安をまとめておきます。
基本は晴天の時の光の量は世界中どこでも一緒。
日の当たる場所が同じなら日陰や部屋の中に差し込む光も一定ということ。
見た目ではなく状況で露出を覚るのがいい。
感度は常に一定にしておくことが大事で、ここでは感度400で考えている。
<1/250 f16 サニーシックスティーンルール 一番きれいな青空>
晴れたら絞りをf16、シャッタースピードを感度の数字と同じにすればいい。
海外では「サニーシックスティーンルール」と呼ばれる露出の決定方法だ。
基本は感度400なら1/400秒f16にする。
フィルムカメラなら/250秒f16でも大丈夫。
青い空と白い雲をくっきり写すことができる。
この露出は背中に太陽を背負う、つまり順光であるということが条件。
そういうときは光がドーンとあたって真っ黒な影が出ている。
1/250 f5.6 第一日陰
日の当たっている場所の露出が一緒なら日陰も常に同じ。
ひさしがあって直射が当たっているところに隣り合ってできる日陰は1/250秒f5.6になる。
これを僕は第一日陰と呼んでいる。
面白いのは晴れても曇っても、そこの場所の露出は変わらない。
日陰は常に一定の光の量なのだ。
ちなみに影が出ない日の曇り空は1/250秒f8、薄い影が出ていたら絞りを11にする。
<1/60秒 f5.6 窓辺の光 モノクロ写真のマジックナンバーだ>
直射が当たっていない窓辺の光は、1/60秒f5.6と覚えておくといい。
窓辺の光はヨーロッパでもアメリカでも同じだ。
1650年頃のオランダの画家フェルメールは日本人にもファンが多いが、彼の描く絵のほとんどが窓辺の光を使っている。
もし僕が彼の横にいて同じ被写体を撮るなら迷わず1/60秒f5.6にセットする。
そしてこの露出はモノクロ写真のマジックナンバーだ。
この露出で撮られた写真というのはグラデーション豊富なプリントができる。
フェルメールライン:間接光が作る光の境目とグラデーション
「フェルメールライン」は、オランダの画家であるヨハネス・フェルメールに由来し、直射日光の当たらない間接光によって作られる日陰を指す。
窓辺の露出は5段上げてISO400、SS 1/60、F5.6 フェルメールライン
フェルメールの絵は窓のある室内を描いたものが多く、それを写真で再現するには以下の条件で良いことから名付けられたようだ。
絞り = 5.6シャッター速度 = 1/60 (ISO400 の場合)
例えば『真珠の耳飾りの少女』も光の条件は同じで、「フェルメールライン」はポートレートにも向いている。
豊かなグラデーションは、顔に強い明暗差を作らず、白飛びや黒つぶれの無い写真に仕上げてくれる。
『真珠の耳飾りの少女』
日当たりの悪さと豊富なグラデーションを活かす
なぜ北側の窓辺かというと、良い意味で “日当たりが悪い” からだ。
東西側は時間帯によって日当たりの差が大きく、南側は直射日光が入りこみやすい。
北以外の方角は天候の良し悪しで露出が変わりやすい。
その点、北側は光が安定しており、時間帯・天候の影響を受けにくい。
また、「フェルメールライン」の特徴の一つが光の境目とグラデーションだ。
豊かな光の階調はまさにモノクロ向きと言える。
鉛色の雨天もフェルメールライン?
ワークショップ2Bの野外撮影では一度も雨に遭遇しなかったので、空が鉛色になるほどの雨天や曇天での露出はあまり教わらなかった。
しかし先日、傘が要る雨降りの日に、空を眺めながら「ひょっとしてこの明るさはフェルメールラインなんじゃないか」と思うことがあった。
この時はフィルムカメラを持っていなかったのでデジカメでの撮影だったが、それなりにモノクロの階調が出てくれた。
ちなみに「第一日陰」の露出で撮るとまっくらだった。
<1/30秒 f2.8 夕ご飯をおいしく食べることのできる、人工光の露出 マジックアワー >
夕ご飯をおいしく食べることのできる、人工光の露出は1/30秒f2.8。
これ以上明るくても暗くても料理がおいしそうに見えない。
食事をする場所は自然と同じ光の量に調整してあるものだ。
それとマジックアワーと呼ばれる日没直後の残照もこの露出になっている。
ちなみにヨーロッパの食卓は日本よりかなり暗め。
黒目の色の違いによるものだろう。
彼らは日本人には薄暗いと思われるところでも平気で本が読めたりする。
フィルムであろうがデジタルだろうが露出の考え方は一緒といっていい。
デジタルならばその場で確認できるので感覚をつかみやすいはずだ。
マニュアル露出を使えれば、もっと自由になれる。
マニュアル露出を試すならカメラは絞るとシャッタースピードを単独で変えることができる機種がおすすめ。
僕の撮るモノクロ写真は、北側の窓から差し込む光を使うことが多い。
直射光ではなく、間接光で柔らかく窓辺を照らす。
グラデーションがたっぷりあるプリントを作ることができるからだ。
あるとき、窓辺の露出が常に一定なことに気がついた。
不思議なことに常に絞りがf5.6、シャッタースピードが1/60秒なのだ。
夏でも冬でも、晴れていても曇っていてもいつも一緒。
晴れていればコントラストが強く、曇っていればコントラストが弱く、見た目と同じように再現できる。
撮影ポイントは光の境目。
窓から入ってきた光が急に落ち込むところだ。
これはフェルメールが人物を描くときのポイントとまったく同じ。
窓が大きくても小さくても光の境目はいつもf5.6で1/60秒になる。
窓が大きければ境目は窓から離れ、窓が小さければ窓に近づく。
さらに晴れていれば境目は窓から離れ、曇っていたら窓に近づく。
光の量によって境目は変化するが、その境目を中心に写真を撮れば露出は一定で良いことになる。
「モノクロ写真を撮りたい」という人には露出を固定して撮ることを勧めている。
まずは窓や入口のように一カ所だけ外に開いている場所を探してみる。
露出はf5.6で1/60秒。
最初は境目がどこか分からなくてもデジタルカメラで撮ってみるとその境目がはっきりするはずだ。
知り合いがいたらそこに立たせて撮ってみてもいい。
その仕上がりは驚くほど「モノクロ」になっているはずだ。
渡部さとる氏は「第一日陰」と呼んでいる。
感度分の16 | きままな旅人
初めてのカメラ「ひとつの露出で撮る」#感度分の16
露出の解説してみます#はじめてのカメラ/
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「2BChannel」の”2B”とは、渡部さとるが2003年から運営している写真ワークショップの名称で、2019年に始めたYoutubeでも同じようにカメラやレンズのこと、写真集の紹介やインタビューなどをアップしています。
経歴・人物
日本大学芸術学部写真学科を卒後、日刊スポーツ新聞社に入社、写真部に配属。
退職後、スタジオモノクロームを設立。
フリーランスとして、雑誌、写真集などで活動。
2003年より写真のワークショップを始める。
2006年よりギャラリー冬青にて作家活動を本格的に開始。
その作品は、アテネ国立美術館(「da.gasita」)、グリフィン美術館(「da.gasita」「TokyoLandScape」)、ケ・ブランリ美術館(「traverse」)に所蔵されている。