宇治の間は、光源氏の息子、薫、孫の匂宮が登場する源氏物語の第三部のうち「宇治十帖]と呼ばれる部分。
薫、匂宮、大君、中の君、そして浮船の五人が宇治の地で綾なす恋の物語。
桐壺院の八の宮(第八皇子)で、光源氏の異母弟である。
冷泉院の東宮時代、これを廃し代わりに八の宮を東宮に擁立せんとの弘徽殿大后方の陰謀に加担させられたため、時勢が移るとともに零落していったのである。
今は北の方に先立たれ、宇治の地で出家を望みながらも二人の姫君(大君、中君)を養育しつつ日一日を過ごしている。
宇治山の阿闍梨から彼を知った薫は、その俗聖ぶりに強く惹かれ八の宮のもとに通うようになりますます傾倒してゆく。
通い始めて3年目の秋、八の宮不在の宇治邸を訪れた薫は、有明の月の下で箏と琵琶とを合奏する姫君たちを垣間見る。
屈託のない、しかも気品高く優雅な姫君たちに、薫はおのずと心惹かれる。
薫は女房を介して大君に逢いたく思うが、代わりに老女房の弁が現れる。弁は故柏木の乳母子(めのとご、乳母の娘)で、今は八の宮の侍女である。弁は、薫の出生の秘密と柏木の遺言を伝えることを約束する。また薫は、案内してくれた邸の従者に自らが着ていた直衣を贈る。
京に戻ってから薫は大君と弁の言葉が気になって頭から離れない。薫は匂宮に宇治の姫君たちの存在を語り、匂宮はその話題にいたく興味を示し、「ついに薫にも恋が訪れたか」と驚く。
年の暮れの雪の日、宇治を訪れた薫は大君と対面し、匂宮と中君の縁談を持ち上げつつ、おのが恋心をも訴え、京に迎えたいと申し出るが、大君は取り合わなかった。
翌年の春、匂宮の中君への思いはますます募るようになり、夕霧の六の君との縁談にも気が進まない。また、自邸の三条宮が焼失した後始末などで、薫も久しく宇治を訪ねていない。
夏、宇治を訪れた薫は、喪服姿の姫君たちを垣間見て、大君の美しさにますます惹かれてゆくのであった。
薫の庇護を受けていた女が匂宮に連れ出されて宇治川対岸の隠れ家へ向かう途中に詠んだ和歌
「橘の小島の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」
橘の茂る小島の色のようにあなたの心は変わらないかも知れないけれど、水に浮く小舟のような私の身は不安定でどこへ漂ってゆくかも知れません。
宇治十帖(「橋姫」より「夢浮橋」まで。薫20-28歳) あらすじ
柏木と女三宮の不義の子・薫と、源氏の孫・匂宮が、宇治八の宮の三姉妹・(大君、中君、浮舟)をめぐって織りなす恋物語である。
つよい仏教色、無常感が作品の主調をなし、優柔不断で恋に対して決定的な強引さを持たない薫の人物造形がライバルである匂宮や第一部、第二部の源氏と対比されている。
薫の人物像はこの後の王朝物語、鎌倉物語に強い影響を与えた。
橋姫(薫20-22歳10月)
源氏の弟・八の宮は二人の娘とともに宇治に隠棲し、仏道三昧の生活を送る。
みずからの出生に悩む薫は八の宮の生き方を理想としてしばしば邸を訪れるうちに、ふとしたことから長女・大君に深く心を引かれるようになる。
都に戻って薫が宇治の有様を語ると、匂宮もこれに興味をそそられるのであった。
椎本(しいがもと)(薫23歳2月-24歳夏)
春、匂宮は宇治に立寄り、次女・中君と歌の贈答をする。
秋、八の宮が薨去。
二人の姫君たちは薫に托された。
薫は中君と匂宮の結婚を計画し、自らはを大君に想いを告げるが彼女の返答はつれない。
しかし薫の慕情はいっそうつのる。
総角(あげまき)(薫24歳8月から年末)
薫は再び大君に語らうが想いは受け入れられず、むしろ大君は中君と薫の結婚を望む。
秋の終わり、大君により中君と薫が一つ閨に取り残されるが、薫は彼女に手を触れようとしない。
やがて当初の計画通りに薫は匂宮と中君の結婚を果たすが、匂宮の訪れは途絶えがちで、これを恨んだ大君は病に臥し、遂には薫の腕のなかではかなくなる。。
早蕨(さわらび)(薫25歳春)
翌年、大君の喪が明けて中君は匂宮の元に引き取られる。
薫は後見として彼女のために尽くすが、それがかえって匂宮に疑われる始末であった。
宿木(やどりぎ)(薫24歳春-26歳4月)
匂宮と夕霧の娘・六の君が結婚し、懐妊中の中君は行末を不安に思う。
それを慰めるうちに彼女に恋情を抱き始めた薫に中君は当惑するが、無事男子を出産して安定した地位を得る。
一方で薫は今上帝の皇女・女二宮と結婚するが傷心は癒されない。
しかし初瀬詣の折に、故大君に生き写しである中君の異母妹・浮舟を垣間見て、心を動かされるのだった。
東屋(あずまや)(薫26歳秋)
浮舟は母の再婚により田舎受領・常陸介の継娘として育てられ、父の財力のために求婚者は多い。
しかし母は高貴の男性との婚姻を望んで、彼女を中君の元に預ける。
母の意中は薫にあったが、ある夜、匂宮が見つけて強引に契りを結ぼうとしたためにあわてて浮舟を引き取り、後に薫と相談して宇治に移す。
浮舟(うきふね(薫27歳春)
浮舟への執心やまぬ匂宮は、中君への手紙から彼女の居所を察し、薫を装って宇治に赴いて強引に浮舟との関係を結んでしまう。
やがて浮舟も宮を憎からず思うようになるが、何も知らない薫は彼女を京に移そうと準備を始め、匂宮もこれに対抗してみずからのもとに彼女を連れ去る計画を立てる。
その結果匂宮とのことは薫の知る所となり、裏切りを詰る歌を贈られた浮舟は二人の男のあいだで懊悩する。
蜻蛉(かげろう)(薫27歳春から秋)
浮舟は行方不明になり、後に残された女房たちは入水自殺を計ったと悟って嘆き悲しみながらも、真相を隠すために急遽葬儀を行う。
薫もこのことを知って悲嘆にくれる。
夏になって、薫は新たに妻の姉・女一宮に心惹かれるものを感じるのであった。
手習(てならい)(薫27歳3月から28歳夏)
実は浮舟は、横川の僧都によって入水自殺後に助けられていた。
やがて健康が回復した彼女はみずからの名を明かさないまま、入道の志を僧都に告げて髪を下ろす。
やがて、明石中宮の加持僧である僧都が浮舟のことを彼女に語ったため、このことが薫の知るところとなる。
夢浮橋(ゆめのうきはし)(薫28歳夏)
薫は横川に赴き、浮舟に対面を求めるが僧都に断られ、浮舟の弟・小君に還俗を求める手紙を託す。
しかし浮舟は一切を拒んで仏道に専心することのみを思い、返事すらもない。
薫は浮舟に心を残しつつ横川を去るのであった。
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